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もう一例挙げると、家賃一万四〇〇〇ユーロ(約二百万円)で六百平方メートルのアパルトマンを税金で借りていることを週刊誌にすっぱ抜かれて、二〇〇五年初頭に失脚した前経済大臣エルヴェ・ゲマール。その妻は同省のエリート官僚で、メディアは二人の月給が共に一万四〇〇〇ユーロだと報じた。ちなみにゲマール夫婦には子どもが八人(!)いて、公務員の休暇制度の充実ぶりがうかがえる。エリート官僚同士の夫婦は私も二組知っているが、どちらも子どもは三人。医者同士の夫婦といえば、2章で紹介した映画ファンの精神科医Aさん。
彼女は勤務医で、夫は開業医。夜中に病院から呼び出しがかかると、夫が車で送っていく協力ぶり。ふたりとも超多忙だし、子どもも二人いるが、映画に行ったり、ダンスを習ったりと仲がいい。ちょくちょく休暇をとっては夫婦でいろんな国を旅行している。一緒に食事をしていても、肩に腕をまわす姿が自然でいい。医者同士といえば、知人D氏の両親で八十歳近くになるご夫婦もそうだが、フランスでも戦後には珍しかったそうだ。
子どもは三人。夫が大学教授の場合、妻の職業は大学教授、リセの教師、学芸員など。学生時代に出会って結婚したケースがほとんどで、子どもは二、三人。食事の席では、夫の大学教授よりも妻の方が弁が立つことも少なくないし、夫も進んで妻の職業に話題を向ける。これが日本だと、妻は夫を立てて、あくまで控え目に、が美徳となる。とにかく言えることは、私はフランスで専業主婦の女性に出会ったことがない。「縛られない」女性の出現ハイ階層の独身女性の恋愛観ももちろん違う。
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そこで、ちょっと思案して、「心の平和」と訳し直してみた。そうすると、「シングルインカムでも、妻が家庭を守ってくれた方が安心して働ける」という伝統的な夫婦像になる。夫の「心の平和」を支えているのが妻の無報酬労働なわけだが、さてこの妻の方は自由だろうか?バダンテールの『逸脱』に「職業は男性にとってと同じだけ女性にも不可欠になった」という言葉がある。
フランスではずいぶん前から当然のことだが、こうしてはっきり言葉にされたのを読んで、私は目が覚める思いがした。そう、やはりそこのところが違う。ちなみにこの文章はDVに関する一節に見られ、「相手の男性がいなくても生活していけるのであれば、女性も別離や離婚という最終兵器を備えていると言える」と続く。